第二場
暗闇の中でオーナーの声が響き渡る。
オーナー 「レディス&ジェントルマン。イッァ・ショータイム。」
台詞が終わると同時に照明入る。センターにオーナーそのまわりにアンサンブルの女性達(レディ含む)
が登場している。
オーナー 『シークレットクラブ シークレットショータイム
今宵貴方に最高の快楽を
酒の誘う夢のような一時を
飲酒は罪か』
アンサンブル『NO!!』
オーナー 『酔って歌って 愛し合う
アルコールの優しい効目』
アンサンブル『OK!!』
オーナー 『馬鹿な政府 間抜けな警察
おかげでここは この世の天国
夜の続く限りお楽しみを』
アンサンブルの(レディ含む)女達。音楽の間色気と愛嬌を振りまいてオーナーに絡む。
オーナーのソロが終わる
音楽が代わる。ここのダンスナンバーは、女の色気、男から見た女を意識して作りたい。
一種の気怠さや退廃。何よりセクシーなナンバーに出来ればベストか。
ナンバーの間に客や従業員などの男性アンサンブルも登場している。
彼等もナンバー中に女達に翻弄されても面白いと思う。
ボーイも出るが、いったん退場して第二舞台へ。ピアノ弾きが一人で酒を飲んでいる。
ボーイ 「ピアノ弾き。店に出ないんですか。」
ピアノ弾き 「ボーイ。お前こそ、まだショーには出して貰えないのか。」
ボーイ 「今度のショーから使ってくれるそうです。」
ピアノ弾き 「そうか、楽しみにしてるよ。」
ボーイ 「そんなに飲んで、今日は演奏しないんですか。」
ピアノ弾き 「俺はここで、こうして居るのが仕事なのさ。」
ボーイ 「エッ?!」
ピアノ弾き 「ピアノ弾きってのは通り名だ。昔少しは、ミュージシャンの真似事もやったが、もともと
まともにピアノを学んだ事もないし。俺に弾けるのは今じゃこの間の一曲だけだ、それすら
気紛れに自分のために弾くだけさ。」
ボーイ 「でも…。」
ボーイ少し不服そうに、酒を飲み続けるピアノ弾きを見つめて居る。
ショーナンバーは終り。女達の客に媚びを売り。笑いさざめくような矯声が聞こえて来る。
下手から一人の紳士が登場する。店の男と少しもめてから、店の中に入って来る。レディ紳士に近づく。
レディ 「貴方初めてのお客でしょう見たことないもの。何しにこの店に来たのかしら…?」
紳士 「お前達を取っ捕まえるためだと言ったら。」
レディ 「警察?!」
紳士 「いや…。」
レディ 「監察官…!!」
紳士 「ブラックだが、頭は良さそうだな。」
レディ 「フン!!嫌なタイプね。」
紳士 「俺は好みだな。店が終ったらどうだ付き合うか…?金は持ってるぞ。」
レディ 「すぐに、告発して捕まえないんなら、目的があるんじゃないの。」
紳士 「そう。ここの責任者は何処に居る。」
レディ 「オーナーなら…。」
レディ、オーナーを探して辺りを見渡す。
レディ 「あそこに居るは…。」
オーナーその声に気づいたように振り向く。軽いショック。レディと紳士に近づいて来る。
オーナー 「いらっしゃいませ。」
あくまでも平静を装って。
オーナー 「レディ…。(耳打ちする感じで)ピアノ弾きを呼んできてくれ。」
レディ 「わかった…。」
レディ上手に退場して行く。
紳士 「久し振りだな。なかなかいい店じゃないか。かなり稼いでいるんだろう…。」
オーナー 「何のようだ、客ならそれなりに歓迎するが…。」
紳士 「残念だが、いちよう客じゃない。今はこういう仕事をしている。」
紳士。懐から証明書のような物を取り出して見せる。
オーナー 「監察…。」
紳士 「ここに来たのは、噂を聞いてね。この場所に、いい女といい酒のあるイタリア人の店が
あるって噂をね。」
オーナー 「アメリカ人だ…。」
紳士 「噂だよ。う・わ・さ。」
オーナー 「監査に入って点数でも上げようてっ言う気か。」
紳士 「そうじゃない…。俺の気にいるようにしてくれれば、どうこうする気はない。
何の得にもなら無いしな。」
オーナー 「金か…。」
紳士 「話しが早いな。それに女と酒を加えてくれれば、黙っててやるよ。ここまでになってる店だ
潰されたくはないだろう。」
オーナー 「待ってろ。」
オーナー上手に退場。第二舞台へ。
レディとピアノ弾きが話している所へ、オーナー登場する。
レディ 「だから、オーナーが呼んで来いって。」
ピアノ弾き 「仕事か…。」
レディ 「でしょうね。嫌な奴よ、権力と金の匂いをプンプンさせてるわ。」
ボーイ 「仕事って…?」
オーナー 「どうした、居るんだろう、話がある。」
ピアノ弾き 「わかった…。」
ピアノ弾き、オーナー第二舞台から退場する。
ボーイ 「レディ、一体どういう事なんだい。」
レディ 「ボーイは、知らなくていいんじゃないの。」
ボーイ 「(少しむっとして)誰か来てるの。」
レディ 「お客よ。良くあることよ。」
レディ、退場しようとする。
ボーイ 「レディ。待って。」
レディ 「痛い!!」
ボーイ 「ごめん…。じゃあ質問を変える。ピアノ弾きの仕事って何?彼はミュージシャンじゃないの?」
レディ 「(笑い)もともとはそうよ。でも今はそうじゃない。別に才能がないって訳じゃないと
思うけど…。」
ボーイ 「それならどうして、この店にいるの。一体何を…?」
レディ 「あんたが、そんなに詮索好きだったとわね。そのうちわかるわ。唯言える事は、彼はオーナーとの
関係を断ち切れないって事かしら。」
ボーイ 「オーナーとの関係?」
レディ 「あの二人はヨーロッパでの大戦に参加してるらしいの。その時の戦友なんですって。
男って馬鹿よね。戦争に参加して英雄になる。そんな事で、自分がアメリカ人である証明にした
かったなんて…。」
ボーイ 「そうか…。大戦を切っ掛けに北部に出て来たんだ。小作人が南部を出るのは難しいんだ…。」
レディ 「お坊ちゃまは、それが気になってたんだ…。」
ボーイ 「それだけじゃない…。」
レディ 「行くわよ。気になるんだったら、貴方も来ればいいじゃない。」
レディ、ボーイ共に第二舞台退場。
第一舞台で、ピアノ弾きとオーナーが話をしている。
オーナー 「あそこに居る男だ…。」
紳士が女達に囲まれながら、愉快そうに酒を飲んでいる。
ピアノ弾き。瞬間無言、オーナーの時と同じような軽いショックを受ける。
ピアノ弾き 「何故? あいつがここに居る。」
オーナー 「監察官だ。悪どく出世しているものさ。」
紳士 「戻って来たか。用意は出来ているんだろうな。」
オーナー懐から、金を出す。紳士笑顔で受け取って。
紳士 「後は女か…。さっきのブラックでも構わないいぜ。いい女だったしな。」
ピアノ弾きに気づいて。
紳士 「何だ。お前もこの店にいたのか。大戦は終ってると言うのに、臆病者同士仲が良い事だ。」
オーナー 「女は後で行かせる。場所を指定してくれ。」
紳士 「今度の時に一緒に連れて行くよ。今夜はこれで帰るがな…。」
ピアノ弾き 「これで終りじゃ…。」
オーナー 「仕方ない。わかった…。お客さんのお帰りだ。」
紳士 「噂どうり、いい酒といい女の店だったぜ…。」
紳士、捨て台詞とも取れる言葉を残して退場しようとする。
第一舞台に戻って来たレディを見つけて。
紳士 「ブラックの女。今度はお前も連れて帰るからな…。」
紳士、下手退場。
レディ 「嫌な奴。ホワイトの中でも最低ね。」
オーナー 「仕事だ。これを、(ピアノ弾きに拳銃を渡している。)あの男をこのままにして置けない、わかってるな…。」
拳銃は客席には見えるが、ボーイには見えない位置で渡すのが好ましい。
ピアノ弾き 「アァ…。あいつには俺だって貸しがある。わかってるさ…。」
ピアノ弾き、拳銃を懐に入れて下手に向かう。
レディ 「仕事…?」
ピアノ弾き 「(一呼吸置いて)行って来る…。」
レディ 「いってらっしゃい。」
ピアノ弾き下手退場。
レディは日常の事として客の方へ向かう。ボーイは、不確かな不安な気持ちのままピアノ弾きを見送る。
オーナーは、平静を装いつつも言葉や態度に表せない、恐怖と威圧感を覚えていた。
照明フェイドアウト。暗転。
第三場
暗幕カーテン前。
下手から先程の紳士が登場する。流石にしたたかに酔っている感じ。
帽子やコートで顔を隠して、ピアノ弾き追って出る。ピアノ弾き一度紳士を追い抜く。
紳士 「追って来たのか…?」
ピアノ弾き 「……。」
紳士 「おおかた、この俺の始末でも言いつけられてきたんだろう。」
ピアノ弾き 「……。」
紳士 「いい度胸だ。だが忘れちゃいまい。今、お前達がここに、こうして居られるのは、
この俺のおかげなんだぜ。あの大戦中、生き残る術を教え込んでやったのはこの俺だ。
銃の使い方。砲弾の避け方。塹壕の作り方まで。それを忘れちゃいないよな。」
ピアノ弾き 「覚えてるよ…。訓練てのは名ばかり上官の立場を利用して、俺達を散々いたぶってくれた事をな。」
紳士 「恨み言か…。だが、戦闘中、塹壕で生き埋めになったお前達を、掘り出して助けた事まで忘れたのか。」
ピアノ弾き 「……。」
紳士 「感謝されてて良い筈だがな。」
ピアノ弾き 「その事を盾に、俺達はより過酷な前線に回された。だが今度は、そうお前の思う通りに行かない。」
ピアノ弾き懐から拳銃を取り出す。
紳士 「そんな物で打ち殺そうって言うのか。言ったろう生き残る術を教えたのは俺だぞって…。」
ピアノ弾き 「うるさい…。」
ピアノ弾き拳銃を数発打つ。紳士は動じない。
紳士 「それで人を殺してきたのか。拳銃って言うのはこう打つんだよ。」
紳士も懐から拳銃を取り出し、ピアノ弾きに向かって一発打つ。
ピアノ弾きの体の一部を掠めていく。
紳士 「いかんな。少し飲み過ぎたようだ…。」
紳士の放った銃弾が、ピアノ弾きの恐怖心に火をつけた。
ピアノ弾き、言葉にならない叫びと共に残りを打ちつくす。
ピアノ弾き 「ワァァー。」
数発は紳士に影響を与える。紳士もそのため応戦する。二人共に銃弾を撃ち尽くす。
紳士 「チッ!!」
拳銃を捨てる。
ピアノ弾きも拳銃を捨てて、恐怖と脅迫感からナイフを取り出し、紳士の懐を目掛けて突っ込んで行く。
ピアノ弾き 「ワァァー。」
紳士。一瞬状況が飲み込めなかったが、自分の腹部にナイフガ突き立てられて居るのを理解した。
紳士 「臆病者にしては上出来だ…。だが俺を殺すのは誰のためだ。自分のためか。
それとも、あのイタ公のためか。気をつけろよ。生き残るために、俺を殺すように、邪魔になれば、
あの男はお前だって…。」
紳士絶命する。台詞の間に、最初は小さく次第に大きく砲弾の音が聞こえて来る。
カーテン開くと、ホリゾントは戦場を思わせるような赤。砂煙を思わせるような煙り。
ピアノ弾き 「ワァァー。」
次第に、ピアノ弾きの叫びに重なるように、砲弾の音が続いている。
この時効果として可能なら、オーナーをシルエットにして第二舞台に登場させたい。
そのまま照明 音響 フェイドアウト。暗転。
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